華倫変2
前回の続き。
若くして死んだ、唯一無比の個性を持っていた漫画家、華倫変について。
彼のコミックは俺はヤンマガKCコミックの「カリクラ」上・下巻と、太田出版の「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」の2種類(3冊)を所有しているが、「カリクラ」は華倫変の死後、大判コミックとして再版されている。
この大判のほうは俺は持っていない。
画像の表紙が太田出版版の大判コミックである。
こっちには俺が持っているヤンマガKCコミックには収録されていない「フルカワとウサギ」という短編が掲載されている。
他の話は俺の持ってるのと同じなので、未見の「フルカワとウサギ」を読みたいのだが、それだけのために大判を買おうかどうか悩んでいる。
「カリクラ」に収録されている作品として前回は「AV」を紹介したが、他の作品についても簡単にコメントを書いてみたい。
前回も書いたが華倫変の作品は「変質者のいる日常風景」と関係性の歪みについて書いたものが主だ。
だが、彼の作品はその関係性の歪みの中に、なにかしら言葉に出来ないセンチメンタルな感傷を漂わせたり、背筋が凍りつくような薄ら寒さを感じる怖い話もある。
前者の代表が「ピンクの液体」、後者は「赤い鎖骨」である。
(お?偶然両方ともタイトルに色がついている)
以下、ネタバレ注意!?
「ピンクの液体」は「ちばてつや賞」を受賞したヤンマガデビュー作。
(それ以前にヤングサンデーでデビューしていたらしいが仕事の依頼が全然来なかったらしい)
主人公の23歳の女性、川本は年齢をごまかして女子高生売春クラブでバイトをしている。
年齢が違うため周囲からは浮いている川本は客からの指名もあまりないが、ある医学生が彼女を買う。
自分を指名してくれたことを歓び、川本はこの医学生と仲良くなろうとするが、医学生はほとんど感情を表さず、無表情で彼女と接する。
そんなことにはお構いなしに川本は自分のことをあれこれと医学生に話す。
両親が離婚し、その後母親が再婚した義父に犯されてトラウマを負い、学校を中退したことなどを、明るく屈託なく話す彼女。
話を聴いているのかいないのかわからない終始無表情の医学生。
しかし別れ際、医学生は川本に大金を渡す。
「家庭の事情が大変なんだろう?」
川本は、表面的にはわからなかった医学生の自分に対する思いやりを感じ、それ以来その医学生と付き合い始める。
無言でなにかの研究をしている医学生のそばにただ居るだけの関係。
しかし医学生は川本に金を払いつづける。
ある日、医学生は川本に注射の練習の実験台になってくれと頼む。
なんの薬を打たれているのかわからないまま、川本は医学生の注射の練習の実験台になることを承知する。
注射を打つたびに大金を払う医学生。
やがて川本は体調に不調を起こし、不眠症になる。
医学生にそのことを打ち明けると睡眠薬をやる、と彼は言った。
それは自作の薬で、本当は麻薬だと医学生は打ち明ける。
そして、自分は以前、川本と同じように女を買い、その女を薬の実験台にしていた、と語った。
女は薬の実験を続けているうちに死んだ、と彼は言った。
川本に手渡した薬は飲むと2分の1の確立で死ぬが、それでも良ければ飲むといい。
そう言って医学生は川本と別れる。
数日後、川本は医学生のもとに現れる。
あの薬を飲んだという。
川本は医学生に問い掛ける
「私が死んだら嫌?」
医学生は少し考えて答える
「嫌だなと思うよ。すごく嫌だと思う」
その答えを聞いて満面の笑みを浮かべる川本。
「そう、よかった」
自分の死を予感しながらも、川本は大きな幸せな気持ちに包まれていった。
この作品の読後感は、たまらなく切なくなる。
川本と医学生の関係性は普通ではない。
医学生にとって川本は薬の実験台であり、モルモットのようにあつかってきた。
川本自身にもそれがわかった。
しかし、川本は医学生の中にある、わずかな自分に対する「思いやり」を感じていた。
医学生自身が気づいていない川本に対する同情や哀れみ、それを敏感に感じ取った川本はそれでもいいのだ、と思っていた。
自分に対するほんのわずかな思いやりを抱きしめて、川本は自分は幸せだと感じる。
自分が死んでしまうことを嫌だと言ってくれた医学生の言葉に限りない喜びを感じる。
人間を物としか感じられないような医学生がなぜか川本に対してだけ芽生えた、わずかな人間的な感情。
それはあるいは恋愛感情だったのかもしれないが、人間としての感情が壊れてしまっている医学生はそれを川本に対して表現することもわからず、表現するという発想もなく、金を渡すという行為を川本に対して感じることの表現の代償として続けていた。
感情の表現が壊れていて、間違っていても川本は医学生が自分に対して好意をもっているであろうことを感じていた。
自分が死んだら嫌?
その問いに対して、嫌だと答えてくれるであろうことを予感し、事実、その言葉を医学生から聞き、喜びと幸せを感じる。
川本と医学生の正常ではないが確かにつながっている関係性。
華倫変はそこに深い感傷を見出している。
この作品を読んだ後は、不器用なこの2人の登場人物に対して、たまらないほどの愛おしさを感じ、切なくなる。
「ピンクの液体」は華倫変の作品の中でも、深い感傷と慈しみを感じる傑作短編だ。
「ピンクの液体」とは、まったく対照的な残酷で薄ら恐ろしい作品が「赤い鎖骨」
この作品には「AV」に登場したあの三好が、キャラクター設定を変えて再び登場する。
ここでの三好はとある会社のサラリーマンで部下である若いOLをねちねちと嫌味を言いバカにする。
バカにされるOL,西本恵子はなぜそんなに三好にバカにされるのかわからないが、わからないのは自分がバカだからだと思う。
三好に対し何の反論も出来ずに、ただバカにされるのを耐える西本。
そんな西本を慰める同僚のOL
同僚は三好は西本に気があるから、わざといじめるんだと言う。
動揺する西本。
しかし、ある日、西本は三好に飲みに誘われる。
同僚のOLの言ったことは本当だった。
三好は西本に好意を抱いていた。
次第に三好に心を開いていく西本。
休日に三好からドライブに誘われる西本。
一緒に出かけると三好は人里離れた山奥へ進んでいく。
三好は西本に前に旅行したときの写真を見せる。
写真の中には、あの同僚OLが笑顔で写っているものがあった。
同僚OLと三好が付き合っていたことを知る西本。
優しそうに見えた三好の顔つきが変り、西本に対しこう言う。
「お前って本当にバカだよなー」
ひとりで話をする三好。
同僚OLは西本と付き合い始めた三好に詰め寄ったが、それに対し三好はうるさがっていた。
西本は三好に、同僚OLとは今も付き合っているのか?と問うと、三好は答える。
「今も一緒に居るよ、車のトランクの中にいる」
自分は西本を愛している、と言う三好
「いろいろと考えるなよ。大丈夫だから」
そして山奥で車を止め、同僚OLの死体を埋めるのを手伝わされる西本。
帰りの車の中で、懸命になにかを考えようとする西本だったが、いくら考えてもなにもわからなかった。
わからないのは自分がバカだから、いくら考えても無駄だと思い、考えるのをやめてしまう。
しかし、なにもわからなくても自分は言い知れぬ恐怖を感じていることだけは西本にもはっきりとわかっていた。
三好も西本も自分達ふたりの間にあるのは恋愛感情だと思い込んでいる。
しかし、それは他の人間が見たら絶対に間違っているのがわかる。
三好も西本も「恋愛」という世間一般から高く見られがちな関係性に、自分達の関係性を摩り替えている。
異常なサディズム性欲を抱えた三好と、自分をバカにする相手に反論できない弱さを持った西村。
彼らは自分の抱えるこうした問題点を「恋愛」と呼ばれる関係性を結ぶことで、正当化しようとしている。
三好はそのすり替えと思い込みをなんなくこなしてしまうが、西村にはそれが出来ず、恐怖にかられる。
しかし、それでも「恋愛」という関係性にすりかえるより他に方法を知らない西村は恐怖を感じながらも、その関係性にすがってしまう。
華倫変は勘違いされた関係性の恐ろしさを描く。
2人の思い込みの間だけで循環する関係性はどこにも行き場がなく、ただ歪み続けるだけなのだ。
華倫変の作品に度々登場する、この三好というキャラクターは実在する知人をモデルにしているのだそうだ。
なんだか華倫変をバカにしていじめつづけていた人物だそうで、しかし華倫変は、それでもこの三好に対して不快な感情ではなく、ある種のあこがれと尊敬の気持ちを抱いていたそうである。
不思議なことにいじめられているにも関わらず華倫変は三好と親友同士であったらしい。
華倫変にとっては、三好の歪んだキャラクターがとても魅力的に見えていたらしい。
華倫変が死んだとき、華倫変が生前運営していたホームページの掲示板に三好のモデルとなった本人が追悼の辞を書き込んでいた。
それは心から親友の死を悼んだ文であった。
華倫変と三好の友情は奇妙な関係性の上でなりたっていた。
上に書いた「赤い鎖骨」とはまったく正反対だが、勘違いされた関係性の上で2人は深い友情をはぐくんでいたらしい。
またしても予定より長くなってしまった上に、まとまらない。
華倫変レビューは、また次回も続くことにします。
うーむ、俺ってレビュー書くのへただなあ。
どうやったら綺麗にまとまるんだろう?





